報酬と組織

眞邊:前回に引き続き、前回はお金の話で経済はそういう仕組みなのか、なぜ実態経済と金融経済が分かれていくのかのお話を頂きましたが、今回のテーマは「報酬」です。

報酬と組織の関連性について考えていきたいと思います。

まず、前回の話に近づきますが、今お金は実体経済に向かわず、直接金融経済に回っているという話がありましたが、給与をそこに回さず、報酬が上がらないから当然モノの消費が進まない、そしてデフレ脱却ができない、方や金融は直接のところで回っていくということでした。 1つ質問は、報酬というものが企業の成績にどこまで関与するのでしょうか。

脇丸:報酬はある一定の金額までは、各従業員の満足度(=幸福度)とリニアに連動していくと思われます。ある一定というのはいろんな研究により800万や900万と言われているラインがあるが、そこを超えると伸びた割には必ずしも幸福度は上がらないという言われ方をする研究もあったりします。

眞邊:この幸福度は、単純にいうモチベーションで、これが上がると、当然行動が促進されるので頑張れるが、これを一定超えると止まってくる、これにはどんなメカニズムなのか。

脇丸:満たされるのではないか。

眞邊:これは、欲求がその金額で一定満たされてしまう、それ以上のものがなかなかないので満たされたことによって効果が薄くなる。例えば、車が欲しい、家が欲しい、という欲求があるとして、それがある一定の金額から満たされてしまうとそれ以上の次が出てこなくなる。

脇丸:もちろん人生のステージや家族の構成や年齢などいろんな環境があるので必要な資金は異なるが、総じて中央値を取るとそのような形になる。

眞邊:一定のところから報酬を上げなくてもいいという考え方を取っているところが多いと思う。

逆にとはいえ、ある一定まで連動でこの幸福度は上がっていくが、人って逆の考えで下げるというものがあり、下げられると腹が立つ、辞めるインセンティブが働く会社もあると想像できる。

例えば、プロ野球選手でも、我々の一般的な感覚からすれば5000万円6000万円もらっているというのは幸福度で言うと満たされているが、6000万円から5000万円に下げられるとすごくモチベーションを下げたり、結局的にFAにつながったりというケースがある。 これは幸福度とはまた違うメカニズムが報酬には片側動いているということか。

脇丸:自分の評価軸としての指標をどこまで重視するかというのは個人の価値観によるのかもしれません。

眞邊:つまり、一定を超えると、これは評価軸になる。この評価軸が下げられることによって、幸福度とは別の視点で不満足度が高まるといった感じ。

組織と報酬の関係性は非常に重要で、これまでお話してきたのは金銭を与えるというお金という報酬で、片側金銭以外の報酬も出てきており、これがいわゆる働き方や働きに対する自由度なども報酬の一つとして捉えられる。

結果が変わったものは、私たちの時はお金だったものが、どんなに残業をしてもつらい思いをしても、お金は一定上上がっていくので、それによりある程度補完される仕組み、高度成長期からバブル期に至るまでずっと続いているパラタイム、理解しすく非常にシンプルな指標でわかりやすかった これが、働き方として自由を与えるといった、給与はそんなに増えないが、自由をインセンティブとして与えるとして組織上のパフォーマンスにどれくらい影響するものなのか。

脇丸:言葉の表面上の互換よりは実態によるのではないかと思う部分があり、単純に働き方や自由度を与えますということが報酬の代替になるかと言われると、それはどうなのかと思う。


眞邊:働き方や自由を報酬に置き換えるのは難しいという考えですね。 別の視点から聞くと、M&Aの担当として、給与(販管費の中の人件費)はどのようにジャッジメントしているのか。

脇丸:見ているのは同業の報酬水準を見る。そこの報酬水準に比べて劣っていると人が引き抜かれてしまう可能性があるので、売上を上げるために必要なコストであったり、組織の中での適正な人員規模や適正配置みたいな組織論は置いておいてですが。

眞邊:水準を満たしていないと同業他社から人が抜かれるので組織としてのリスクと見れるが、逆に極端に高い場合はどうなのか。

脇丸:少し話の角度がずれるが、ゲームのクリエイターやプログラマーや最近ではAIの領域など自分の腕で働いているプロフェッショナルな仕事をされている方々は、報酬だけではなく次に転職する際の自身のレジュメがどれだけアピールできるものになるかの観点で会社を選ぶ人がいるので、そうするとブランドの高い会社ほど報酬が安くても人は来てくれる。

ものすごく下品な言い方をすると、GoogleやAmazonの経歴を書けるというAという選択しと、できたばかりで新進金融などのベンチャー企業で明日なくなるかもしれないリスクや仕事の幅が限られるところで経験を積むBという選択肢であれば、一般的にはB案の方が高い金額を出さないと同じレベルの人は来てくれないという考え方を取る。

Aの方は次の選択権を持つので、これが金融でいうところのオプションという考え方となり、選択権がディスカウントされる。

眞邊:価値の人材で考えると、自身の価値は1つはブランド=どこに所属しているかということで、これが満たされないとお金としての代替は考えられる。

脇丸:少し自分の会社のブランドがここよりも落ちると考えると、トップの企業から人を抜いて来ようとしたとき、必然的にどうなるかということ。


眞邊:組織の中で報酬というものの考え方は非常に重要。外から見るとわかりにくい部分があり、数値だけでは測れないものがある。

経営視点から言うと、報酬の決め方のどこかから人を抜いてくる際に、ブランドが低いので高いお金で引き抜いてくる、そうするとこれまで働いていた方とは報酬の差が生まれる。

その報酬差が生まれた場合、それは難しい局面になる。

例えば、クリエイターみたいな人がいるからいいというところはあるが、それを実際に運営する部隊がいなければバランスはとれないわけで、この人が来たことでその方々が抜けてしまうことで、組織としては非常に疲弊もしくは毀損される。この問題は人材流動が大きければ大きいほど、非常に根深く残るのではないか。

脇丸:なので報酬決定はものすごく難しい部分であり、昇進昇格などの人事は企業の根幹である。

眞邊:少子高齢化で人が減ってきている状態で、なおかつ人材流動が激しくなっていく。

人材の価値はブランドがあるところのほうが強い、つまりブランドの低いところはお金で代替するということは販管費が膨らむ、経営上で販管費が膨らむということは非常にリスクがある。この観点から考えると、よりブランドの弱いところは淘汰されていくということですね。


脇丸:なので、M&Aが起きる。

眞邊:なるほどですね。なので、ブランドが強いところがのみ込んでいく。そこで今度は水準化していくという流れですね。 例えば、自身が会社を持ち、良い人材を採用したことによって販管費が膨らみM&Aで会社を手放した。その際に給与水準は下げられるのか。

脇丸:それはだいたいM&Aの場合には、当初2年間は下げないといった契約を売主と交わす。ただ2年後以降はわからないといった契約内容になることが多い。

眞邊:2年の間にブランド力を背景にその人たちが辞めても、良い人材を安価に適正価格で引っ張ってくる。

脇丸:あるいは社内を適正規模に調整していくということです。

眞邊:つまり、報酬という面で面白いのは、より、会社の中の強さ弱さというブランド力というものが大きくものをいう。単純に大きく差が出てきそうで、日本のM&Aは報酬という側面から見ると加速する側面があるということですか。


脇丸:これも少し話は逸れるが、バブルの頃から新卒の給与が変わっていない国は恐らくほぼない。経済成長していない。なので、報酬は上がらない。その上がらないことにフラストレーションを溜めて、もっと頑張るぞという世代が今の40代50代で、そこから下に関しては、上がらないことを前提に物事を見ているので、求めても手に入らないものは最初から望まないという諦観があるのではないかというのが少し気になる点である。

眞邊:それが諦観になってしまうと、そのM&Aをしても40代50代は企業としてはそこまで大きく価値を望まないゾーンでカットしたい人たちであるために、どちらかというと停滞してしまうリスクもある。

逆に言うと、報酬という問題をきちんと扱うことで経済は活性化する可能性がある。 M&Aが起こっていくことによって、企業再編が進み、日本の停滞している経済状況が変わっていく。

脇丸:過当競争になっている分野はM&Aによる再編も1つの選択肢なのではないか。

眞邊:報酬の問題は単純に社内組織内だけの話かと思っていたが、実は非常に根深い話ですね。次は経営者の報酬というところにも切り込んでいきたいと思います。