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【人事ニュース】中小企業成長の鍵はコミュニケーションにあり
日テレHRコンサルタント 清水葉太

2019.06.07

日テレHRコンサルタントによるリレーインタビュー第三弾は、中小企業専門の組織コンサルタントの清水葉太さんにお話を伺います。清水さんは経営と現場の目線を面談ですり合わせながら「社員参加型のプロジェクト」で会社を変革に導いています。その中で見えてきた組織づくりや、中小企業が見落としがちな「人の事業承継」のテーマも解説いただきました。

日テレHRと中小企業向けコンサルティングのシナジーを生む

清水:私は主に中小企業向けにコンサルティングをしています。コンセプトは「収益性を上げて永続する会社をつくる」ことに加えて、会社で働いている一人ひとりが充実感を持って仕事に取り組める環境をつくるというものです。

――会社と個人の両方に焦点を当てているのですね。

清水:そうですね。日テレHRの話をいただいた時に「日テレHRのノウハウと私のノウハウはシナジーを生み出せる」と思いました。日テレが5年連続で視聴率3冠を達している背景には、企画力の高さやスタッフが自由闊達に意見できる風土があると理解しました。この要素と私のコンサルティングの経験をかけ合わせれば、日本の企業も高い業績を維持できて、そこで働く社員もやりがいがあるという状態をつくれるはずだと思うのです。

――どういったコンサルティングになるでしょうか?

清水:従業員が200名以下の企業様に、組織力強化プログラムを提供していきます。この規模の企業様は、定期採用、社員研修が行われており、ある程度の組織運営は行われていますが、まだ専門部署として人事部が確立されていないため、人事施策が戦略的に行われていません。

――総務が兼ねている場合もありますよね。

清水:そうですね。中小企業の多くは兼務で対応しています。でも、従業員数が100名を超えてくると、場当たり的な施策では、組織の統制は取れません。採用も教育も評価制度も、戦略的に取り組むことが必要です。つまり、戦略的な人事が会社を成長させるステージですね。この段階の会社は制度を整えていかないと組織が崩壊することもありますし、社長一人の力だけではどうにもいかない段階でもありますからね。

――従業員の一人ひとりと向き合う時間も取れなくなる頃です。

清水:一方で従業員数100名から200名程度となると、一人ひとりの力の影響力も大きい段階です。つまり、個々のパフォーマンスを1%でも上げることで会社が成長する段階とも言えます。だから専任の人事が必要ではあるのですが、簡単にはいかないのです。なぜなら人事の専任を採用する場合は、採用費用が数百万かかってしまう可能性があります。しかも厳しい見方をしてしまえば、人事部門は間接的人員でもあり、そこに費用をかけたくないと考えるのが自然です。だから100名規模のステージを突破するには、人事の仕事をする外部リソースを使うことも検討する必要があるのです。

主導権は消費者にある今は、企業成長の鍵は「社員力」が握る

清水:もともとこういった中小企業の支援をしたいと思ったきっかけは、20代前半の頃に地域活性化の仕事をしていまして、その時に、やはり日本は中小企業で成り立っていることに気づいたことが大きいですね。九割以上が全国の地域にある中小企業で成り立っていますし、国民の六割近くは中小企業で働いているわけですよ。地域の課題を解決する原理原則は「地域に住んで地域の企業に就職して、地域の企業が稼いで給料を払って、地域にお金を落として商業が成り立ち、子どもを生む」サイクルです。

――地域が自力で発展していく必要がありますよね。

清水:そうですね。それで、中小企業の実情を見てみると、大きな転換期に来ているように思います。高度経済成長の時代は、三種の神器という言葉もあるように、生活に足りないものも多かったので、物をつくれば売ることができた時代です。消費者のニーズが分かりやすかったですね。だから「良い物をつくって売れ」というトップマネジメントで成果が出ていました。

――今は新しい組織のあり方が求められているのですね。

清水:これだけ物が溢れて社会も成熟してくると、消費者も商品を選べるようになって「とにかく売れ」という経営のあり方も組織のあり方も成り立たなくなりました。消費者が企業や商品を選ぶ時代になりました。そういう背景の中、企業は差別化が求められるようになり、求められる組織のあり方も変わったのです。つまり、従業員の一人一人がお客様と対話して、他の会社と自社は何が違うかを説明する必要があります。お客様が今求めているものは何かということを、お客様と接している従業員一人ひとりが考えて情報を集めることが必要になります。さらには現場の声をトップに届けて議論し、商品開発に活かすというサイクルも必須になりました。コンサルティングで多くの企業を見てきましたが、環境の変化に左右されず堅実に成長している企業は、社員がお客様に向き合える環境づくり、社員の意見を商品開発に生かす仕組みづくりがとても上手です。

――従業員一人ひとりに裁量を持たせる必要を感じます。

清水:こういった社会の変化を組織のあり方に反映させる必要があるのです。端的に言えば、今の時代は主消費者が主導権を持っているのです。そう考えていけば、商品力が大事ということは前提になり、それ以上に社員の人間力が企業に求められていると気づきますよね。ここを組織として取り組んでいけば中小企業のパフォーマンスは劇的に改善されます。

「指示待ち組織」は社員参加型プロジェクトで変われる

清水:トップダウンの組織も社員の一人ひとりが自ら考える組織に生まれ変わることができます。自分で考え、自分で行動し、自分で結果を出して、自分でやりがいを得るという循環は生み出せるのです。人は誰かに言われて動いて結果を出すよりも、悩みながらも自分で行動して出した結果の方が充実感を得られますしね。

――清水さんはどういった方法で組織の変化を導いていくのでしょうか?

清水:まずは、経営層と経営戦略のすり合わせから始まります。どうやって儲けるか、そのために必要な改革のセンターピン何か、この点を明確にします。実際にコンサルティングが始まっていくと現場の方とのコミュニケーションの方が多くなりますね。戦略を実行するのは現場の社員ですからね。一つの例をお話します。改革のスタートにあたり、一人ひとりと一時間ずつ面談をしていきます。面談をしていくと経営者が「業績を上げるために必要な活動」という認識で伝えていることと、現場の解釈がずれていることが分かるのです。話を聞いていると「この年代、この階層、この人から伝え方でずれている」というところまで特定できます。

――現場とのコミュニケーションを密に取るからこそ分かることですね。

清水:そうですね。一方で現場の人も伝えたいことがあります。会社の人に対しては相談できることと、できないことがありますよね。言う側としたら「自分はどう思われるのだろう?」と心配ですし、評価も気になるでしょう。何でもざっくばらんに話すには、上司と部下が相当深い関係にならないとできないですよね。だから中立的かつ第三者の立場で、組織や人事のことを分かっている人が側にいれば、会社の課題に思っていることを本音で言えるのです。

――本音を言える場は重要ですね。

清水:面談のやり方も重要です。ただ社員の不満を聞きまわっても意味がありません。面談の質問内容も、全て意図をもって構成しています。面談が終わった後には、面談内容をまとめて改革案をつくっていきます。社員の方には、面談のお礼と合わせて面談結果から分かった組織課題と改革案をフィードバックします。全社員を集めて話す場合もあれば、部署ごとに回る場合もあります。その時に「みなさんにお聞かせいただいた解決策を実行していくために、プロジェクトを立ち上げます。つきましてはメンバーを募ります」という形でお話をすると、自分たちが言ったことを「会社は本気で受け止めている」と実感できます。そうすると社員の方が参加してくれるようになります。組織の変革は、社員の方とのプロジェクトの形で進んでいくのです。特に評価制度は社員の方の納得感が重要なので、社員参加型のプロジェクトは有効ですね。

制度づくりのプロセスへの参加が、生産性を高めていく

清水:社員の方の問題意識を聞いていると「給料がもっとほしい」などの話になることも多いのですが、最終的には組織の生産性の低さに行き着きます。なぜ生産性が低いのかというと、業務の無理・無駄があり、一人ひとりの役割が明確にされておらず、本来の業務に専念できていないからです。一人ひとりの意識がバラバラであり行動量も足りない。こういった生産性の低さは、指針がないことが原因で生じます。

――指針とはどういったものでしょうか?

清水:社員の指針になるのは評価制度です。私が評価制度をつくる時には、必ず社員参加型のプロジェクトを進めていきます。当然ながら、私がつくってトップダウンで進めれば完成まで早いのですが、それは押しつけになってしまいます。評価制度の多くはただの給料を決めるための査定のツールになっていて、運用を進めていく中で、次第に形骸化していきます。評価制度とは本来、会社の大事な方向性を示す指針であり、管理職から現場まで一人ひとりのやるべきこと、持つべき数字責任などを明確にした会社の設計図なのです。ですから、評価制度はコンセプトと作る過程での社員の関わり方が重要なのです。

――もう一度会社を整える大きな作業ですね。

清水:こういった会社の設計図である評価制度づくりというプロジェクトを、半年から一年をかけて進めています。会社の方針への理解が深まり、人や環境のせいにしても売上が上がらないということを社員全員が理解して、チームワークを大事にした方が良いという当たり前のところに落ち着いていきます。分かりやすく言えば「管理職の役割は人を育てること」、「営業は数字上げることが第一優先であること」であったり「事務的な仕事は、事務仕事を通して収益部門の人たちをサポートすること」という本来の役割に立ち返るようになるのです。そうすると生産性は自ずと上がっていきますよね。

――評価制度はどのようにつくられていくのでしょうか?

清水:いかに評価制度に落とし込むかというと、これもまたシンプルです。基本的には会議形式で、私から議題を提示し、みんなで議論したことを私が議事録としてまとめ、話し合ったことが結果として評価シートになる流れです。評価シートができる過程に参加していますから、納得してその評価に沿って働けるようになりますね。

――会社全体の仕組みが分かり、自分の本来のやることが分かると業務に集中できそうです。

清水:ただ、評価制度はあくまで指針であるという理解が必要です。指針があっても、スキルがないと実行できないですよね。だから評価制度をつくった後には、教育が求められるのです。その教育の仕組みも社員の方の声を聞きながらつくっていきます。

――どういった教育がつくられていくことが多いのでしょうか?

清水:働く上で大事な心構えとなるスタンス、仕事を進める上で必要なベーススキル、チームの一体感をつくるリーダーシップ、これからの観点で教育内容を整えていきます。例えばベーススキルでは、レジ打ちの教育をしたりします。レジを手打ちでしている店舗は違算や打ち間違い、お釣りの渡し間違いが多発しています。時には千円単位、一万円単位でずれることすらあります。この部分を改善する教育の仕組みもつくりますね。

――見落としがちな点ですよね。

清水:飲食店の接客サービスの向上を図ることを目的に、知識をつける研修もあります。取り扱っている産地、食材の旬の時期などの製品知識を高めるテストをつくったこともあります。他にも管理職に関するものでいえば「コーチングとは何か」、「傾聴とは何か」というコミュニケーションに関することも育成の範囲に入ります。

――外から持ち込まれたものよりも、自分たちの声が反映されたものだと分かると、取り組む意欲も上がりますね。

清水:社員参加型にすると、育成のサイクルも生まれます。例えば、ある三年目の社員がプロジェクトに関わって評価制度や研修内容をつくったりします。そうするとつくった人たちは運営側になって、社員教育が始まります。受ける側が六年目、七年目の先輩だと先輩としてのプライドもあってしっかり取り組みますよね。この循環をつくるために、研修の先生役も社員の方にやってもらいます。

――教えるとなるとさらに学ぶ必要がありますよね。

清水:もちろん、不慣れな先生役もいます。私もサポートして先生の台本をつくったりします。でも、前に立って話すのは社員です。もしかしたら、震えながらかもしれないです。でも、そのおぼつかないけれど一生懸命話している様子から、社員の方は真剣さを受け取ります。そこでも育成の一体感が生まれるのです。だから私は「教育」を、教える育むではなくて、共に育む「共育」にしたいと考えています。

――教える側と教えられる側を、完全に分断しないのですね。

清水:そうです。自分が先生役、例えば新人研修を担当したら、やっぱり新人が気になるようになりますよね。「あの人、元気に働いているかな?」と普段から気にかけたり、廊下で会ったら挨拶するようになるのですよ。新人からしても「あの先輩かっこいいな」と思えてロールモデルも社内でできていきます。

――身近なところから目標はつくられていきますよね。

清水: 仮に私が講師でやってきてうまく話しても「10年後には清水さんみたいになりたいから今日から頑張ろう」とは思わないですよ。でもそれが社内の人であれば、身近な目標になります。最終的には私がいなくなった時にも自立自走して「清水さんの力を借りなくても、自分たちの力だけでできるようになりました」と言ってもらうのが理想ですね。

中小企業が先送りにしてしまっている「人の事業承継」

清水:中小企業が取り組むべき課題はたくさんありますが、その中でも後回しにされがちなものがあります。それは人領域の「事業承継」です。まず事業承継は大きく分けると、子どもや親族に継ぐ「親族内承継」、社員に引き継ぐ「親族外承継」、そしてM&Aの三つに分かれます。私はその中でも親族内承継と親族外承継の領域を専門としています。

――テレビなどのニュースでも、後継者が見つからなくて廃業してしまう様子がよく映されますね。

清水:大きな課題になっていますよね。この事業承継の課題も、私がこれまで実行してきた社員参加型の評価、育成制度のつくり方が有効なのです。制度づくりも「将来はこういう会社になりたい」という未来図を描きます。これはつまり、後継者と会社の次の十年を担う社員たちが信頼関係をつくるプロセスでもあるのです。この過程で経営者と現場のコミュニケーション量が増えていきますし、時に摩擦も起きます。

――現場からは不満の声も上がりますしね。

清水:でも、その摩擦が事業承継には必要なのです。摩擦が起きてそこで話し合いが行われますから、ただの会社と従業員の関係から「同じ釜のメシを食う」人間関係が醸成されていきます。

――事業承継の問題はずっと言われていますが、なぜなかなか解決の知らせが聞こえてこないのでしょうか?

清水:お金周りの事業承継の専門家はたくさんいて、対策はできているのですが、人や組織の問題は後回しになる傾向があるからだと考えています。資産の承継はリスクが分かりやすいので対策も早いのです。相続する側から考えると「元気なうちに準備しておいてほしい」と思うのが自然でしょう。

――社員の方からすると、社長が引退した後の会社の将来も気になりますよね。

清水:重要なことは、事業承継に付随する「引退」というものは、社長にとっては最後の仕事になると認識することです。例えば売上規模100億の会社をつくったとしても、自分が引退した後も100億を維持する、もしくはさらにそこから伸ばしていくのは未知数ですよね。

――準備することも多岐に渡るように思います。

清水:後継者の方も、頭では理解しているはずです。後継者塾というものもあって、財務諸表の見方やベテラン社員との接し方も教えてくれるし、そういった本も出ています。でも、頭で分かっていても、実際に会社に行って目の前に座っているベテラン社員とどうやって関係をつくっていくかは別問題ですよね。そんな簡単に「今日飲みに行きましょうよ!」なんて言えないじゃないですか。こうした人の問題を抱えて苦労されている後継者の方がものすごくたくさんいらっしゃるのです。中小企業の経営と人や組織の問題は密接に絡み合っており、これは社員参加型で解決できるという理解をどんどん広めていきたいですね。

取材・執筆・撮影:佐野創太